「この本、面白いんですよ」
デザインチーム、Semitransparent Design(セミトラ)のデザイナー田中くんと打ち合わせしていた時に教えてもらったのが、これ。

ファッション・デザイナー、ジョナサン・アンダーソンがキュレーションした展覧会「Disobedient Bodies: JW Anderson curates The Hepworth Wakefield」(2017年, ヘップワース・ウェイクフィールド美術館)に際して、「限定2,000部」で発行された展覧会図録です。
しかし、この図録自体が「展示空間」になってるらしい。どのように?
打ち合わせ終わってすぐに、日本のディストリビューター twelvebooks のオンラインサイトで購入しました。(幸いなことに在庫がありました)

届いた本は、全142ページ。
さまざまな種類の紙を組み合わせていて、それがゴムで束ねられてます。「本」というフォーマットを取りながら、「本」から開放された「本」とも思える。

紙をくると、1ページに1作品。
左右見開きで、2つのイメージをコンバインして眺めるというフォーマットが基本です。片面はファッション・デザイナーによる衣服、片面は芸術や工芸作品。
「美術」「工芸」「ファッション」の間にある見えないヒエラルキーを意識的に外し、クロニクル(時系列)や、カテゴリーごとの分類も取っ払い、完全コラージュで構成されています。全てガチガチのフォーマット通りに、レイアウトと章立てが確立しているのではなく、作品写真が切り抜かれていたり、イメージサイズの大小が「物事の大小の感覚」と違ったり、扱いが軽やか!
受け取る側も自由になります。ページをめくっていると、次々と自分の中のコード(世界を認識する規則)が緩んだり、新たなコードが生まれたり、時にはくすっと笑って解放されたり。
無意識で当たり前としてた「現実もどき」がひっくり返されることで、「フォルム」「ボリューム」「素材」など、彫刻的な形のバリエーションやフォーメーションに意識の焦点が向かいます。

【右】:サラ・ルーカス, Bunny Gets Snookered #9, 1997

【右】:マース・カニングハム, Scenario, choreographed 1997(コスチューム: 川久保玲 / コムデギャルソン)

【右】:(左)サラ・ルーカス, Grace, 2006 (右)コムデギャルソン, Monster tubes vest, “Monster” collection, A/W2014, womenswear
その流れの中に、さらにジョナサン・アンダーソンと写真家ジェイミー・ホークスワースによるフォト・プロジェクトが「挿入」されてきます。
他の作品は厚めのマット紙と原色のカラーペーパーですが、フォト・プロジェクトは雑誌のような薄くやや艶めいた紙が使用されています。映画を見てたらニュース速報が入ってきたような感覚。「ここは現在進行系」という印象を受けます。
「挿入」感はあるのですが…
レイヤーの質の違いというだけで、では、どっちがメインチャンネルで、どっちがサブチャンネルか?見てて、わからないんです。いや、むしろ気持ちよく混乱する。どっちも、並列でオムニチャンネル。
これ、何かの感覚に似てるな?
欧州的な「広場」(中央を起点に規定された単一の場)ではなく、日本でいう「界隈」(活動・状況が起こっている複数の場)に近く感じます。そして、ネットにアクセスしてる時の気持ちに近い。
全てのチャンネルに対して同時にアクセスをひらくと、それぞれの造形が本質的に指向するもの・造形に向かった力の共通点が「なんとなくある」気がしてきます。

【右】イッセイミヤケ, Bamboo Please dress, “Bamboo” collection

【右】ヘルムート・ラング, Astro-moto blouson with signature backpack straps, A/W 1999, womenswear

【右】ジョナサン・アンダーソンと写真家ジェイミー・ホークスワースによるフォト・プロジェクト
ここでタイトルの「Disobedient Bodies」(服従しない身体)にハタ!と戻ります。どこか人を食ったようなタイトル。
難しい言葉に感じますが、すごく乱暴に凝縮すれば「生命」のことかと思います。「今・ここに・どうしようもなく・存在してる」コトで、それは、どうしようも否定できないし、何に服従することもない、絶対条件なわけだから。
キュレーターであるジョナサン・アンダーソンは、1984年生まれ。日本でもユニクロのとのコラボで知られるようになった「JW アンダーソン」と、スペインの王室御用達レザー・ブランド「LOEWE(ロエべ)」のクリエイティブ・ディレクターです。
服を着ることを通して、素材やクラフトマンシップが果たす役割を追求しながら、ジェンダレスな新しいフォルムを見出してきました。彼がデザインしようとしてるのは「意匠」ではなく、「圧倒的な情報量・スピードに圧倒されず、自分を生きるを表現する」なのでは。
そんなことを示唆する興味深い本でした。
美術館と図録。2つの異なるメディアの展示空間を実現できたのは、イギリスのOK-RMとのコラボレーションがあってこそとジョナサンも発言していました。展示の様子がわかるレファレンスをご紹介します。
▶︎OK-RMのアーカイブ
写真です。図録と合わせて想像しながら見ると面白いです。
▶︎ジョナサン・アンダーソンのインタビューと展示風景
カナダのセレクトeコマース【SSENSE】製作です。
▶︎美術館のトレイラー
梅澤さやか

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