ブック・ラバーズの巡礼② PETER SCHLESINGER SCULPTURE ピーター・シュレシンジャー 作品集

18才のサマースクールで
ホックニーに出会った人。

時が経ってみると、あの時のあの青年がこう成ったかと思うことがある。

ピーター・シュレシンジャーという名前のアーティストは、近年までよく知られてなかった。だけど、デヴィッド・ホックニーの有名なペインティングで描かれたあの人物だよ、と絵を見せられたら、アート好きなら「おお」となるかもしれない。

18才のピーター・シュレシンジャーが、28才のデヴィッド・ホックニーと出会ったのはUCLAのサマースクールだった。2人は恋仲になり、シュレシンジャーは、はホックニーの名作にモデルとして度々登場することになった。シュレシンジャーは、ホックニーの初めての「真剣な恋愛相手」であり、ミューズとなった。

Peter Getting Out of Nick’s Pool, 1966, David Hockney
Peter Schlesinger with Polaroid Camera, 1977, David Hockney

やがて2人はロンドンに渡り、スウィンギング・ロンドンのど真ん中で過ごした。寡黙な青年・シュレシンジャーは、ペンタックス・カメラを手に、周りにいる多彩なタレントを持つ人々を日記のように撮り続けた。

パロマ・ピカソ、オジー・クラークとパートナーのセリア・バートウェル、写真家のセシル・ビートン卿、マノロ・ブラニク、ツイギー、ロバート・メイプルソープ、イヴサン・ローラン…。

ロンドンで過ごすうちに、シュレシンジャーは、やがて50年来のパートナーとなる写真家のエリック・ボーマンと出会う。2人は一緒にニューヨークに渡り、やがてシュレシンジャーは、彫刻作品を作るようになった。

この作品集は、その集大成。彫刻家・ピーター・シュレシンジャーの作品をパートナーのボーマンが撮影している。アートブックは、スウェーデンのファッション・ブランド「Acne Studio」とのコラボレーションによって制作された。

本はスウェーデンで印刷されている。
作品の緻密さを表すために、素材も厳選されたという。ベルギーで特注された黄麻織物(ジュートクロス)で表紙は綴じられており、中には日本で作られたラスティックな紙も使われている。

作品は、彫刻を作り始めた80年代から現在まで、150点以上が時系列で並べられている。彫刻に関連する線画も時おり混じる。1000部限定で、ナンバリングがされている。

Acneが作った作家お気に入りのパジャマも同梱。シュレシンジャーがもっとも好きな衣服がパジャマだという。いかにも、スウィンギング・ロンドンのサロンで息をするように過ごした数奇人ぶりだ。

なのだが、私の場合、このような背景はまったく知らず、ただこのアートブックと作品が印象的で、調べたら、後から「そういうことであったか」とストーリーに納得した次第。

ちなみに、シュレシンジャーは、2018年のGUCCIのキャンペーン・フォトブックを撮影している。ダルシオ・アルジェントの映画へのオマージュとしてローマで撮影された写真。


才気ほとばしるサークルの中で文化の洗礼を受けたピーター・シュレシンジャー。そこに漂う「雰囲気」を血肉としてきた人だからこそ、創作の痕跡をインスピレーションにしながら、素直に出てくる表現なのだろう。

「量才録用の苦心が実る」(ひとりひとりの優れた才能を計らって、能力を活かせる地位に人材を用いること)という言葉があるが、彼の場合はおのずと自分の能力を活かステージに移行したようで、マイペースなようで芯のある展開が興味深い。

ピーター・シュレシンジャー

▶︎ PETER SCHLESINGER SCULPTURE
▶︎ オフィシャル・ウェブサイト

梅澤さやか