
日本古美術とジュエリー
足もなければ羽もなく
体もなくて見えもせず
聞こえもしないで早く飛び
決して追いつくことはないものなあに?
六本木の新国立美術館で開催中の『カルティエ、時の結晶』展へ。
会場構成は、杉本 博 & 榊田 倫是 ユニットの新素材研究所です。
このように並列で書きたくなるほど、新素材研究所の個性をつよく感じた展示でした。
日本古美術 x ジュエリーをくみあわせた展示は、意外に合います。
それは、 渋谷のThe SG Club で、コーヒーカクテル(水出しコーヒーにベルガモット・蜂蜜・ヴィネガー・グレープフルーツ)を飲んだ時の「面白さ」に似ています。
なぜか古びたものと対比して置かれることで、令和の日本人からは縁遠いカルティエのハイエンドジュエリーも、
もし、わたしが、19世紀のインドのマハラジャなら?
エジプトのファラオなら?
と、ふとコネクトして空想にふけることができる橋渡しになっています。
例えば、光学ガラスに置かれた《2枚の「フェーン(シダ)の葉」ブローチ》(1903)は、シダのように流れ落ちるような形にダイアモンドがセットされたブローチがガラスの上に置かれて、互いに光を誘発しあい楽しそうに輝いてました。その背景には、春日大社の神鹿を描いた春日曼陀羅が光ってる。白光と白光が出会って、さらに白く透明にさざめく世界で、堪能しました。
また、全編に渡って使われていた木のトルソー。これは樹齢の長い神代欅・屋久杉の貴重な古木を仏師が彫り上げたトルソーは、端正で宝石の輝きを引き立てていました。
展示空間では、なんといっても、「序章・時の間」が注目に値します。
黒いカーテンに囲まれて、筒状のファブリックが12本、光の柱のように垂らされている。地底に眠る宝石を探しにいくままに迷いこんでいくと、いつどこにいるか分からなくなる魔法空間。このファブリックは、新素材研究所の依頼を受けて川島織物セルコンが開発した。よく見ると、古くからある織り方である「羅」(※註1)/「風通織」(※註2)の二重構造になっているため、大変複雑。しかし、清潔に透ける効果が保たれています。
違和感としても面白く感じたのは、多用されてたガラスに棒をさして展示台にしてる使い方です。「それはガラスくんに筋通してことわったのでしょうか?」と、思わず不憫に思う扱い方に感じます。つまり、新素材研究所の素材のとりあつかいは、自然と繊細に同期する日本人にしては暴挙ですが、それだけインパクトなのかもしれません。
※註1:羅
搦織(からみおり)で織った目の粗い絹織物。経糸が左右の経糸と絡み合わせて織られている。それにより、目は粗いがしっかりした生地になる。大きな透け感のある織り模様が特徴。正倉院御物にもあるほど古い織り方だが、織方が複雑なために一時期技術が跡絶え、昭和に職人の手で復活された。
※註2:風通織
二重織の一種で 小さな袋状の模様が現れる織物。
表側の経糸・緯糸と 裏側の経糸・緯糸に それぞれ違う色を使い、緯糸を変えたりする組み合わせで多色の風通(三色風通 四色風通等)ができる。




とはいえ、奇抜さもシックな木のトルソーにかかってると中和されますね。

ジュエリーやら美術やら、あまり難しく考えなくていいよって、気楽になってくるのも不思議。

「王のジュエラー、ジュエラーの王」
ところで、カルティエは、「王のジュエラー、ジュエラーの王」 とエドワード7世が称したそうですが、名コピーライターですね。
ところが、カルティエの創業は1847年。
その次の年に、フランスは7月王政が倒れ、第二共和政が誕生。ナポレオン三世が皇帝に即位した時代です。
冒頭の謎なぞの答えは「時」です。
決してつかむことのできない「時」。
しかし、王制がなくなる時代の最後に誕生した王のジュエラー
カルティエは、貴重な時の結晶を宿す術を知っていたのです。

カルティエ、時の結晶
70年代以降の現代作品に焦点を当てたコレクション展示。
「時間」をテーマに、カルティエのデザインの世界を探求できる。
▶︎ 展覧会スペシャル・サイト
● 会期: 2019年10月2日(水)~12月16日(月)
毎週火曜日休館
※ただし、10月22日(火・祝)は開館、10月23日(水)は休館
● 開館時間: 10:00~18:00
※毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで
● 会 場: 国立新美術館 企画展示室2E
〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
梅澤さやか

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