【絶景を教えてくれるアートブック・10選】❶『オラファー・エリアソン: YOUR GLACIAL EXPECTATIONS』

Your glacial expectations, 2012
Kvadrat, Ebeltoft, Denmark, 2012
Photo: Annabel Elston ©︎Olafur Eliasson,

” 私は建築もテキスタイルもジュエリーも鉱石もデザインも文字も絵本やアートブックも…自分の感性に触れる美しいものはジャンルを問わずなんでも好きです!

深いところで全てが繋がっていたり、コアのところが同じだったりするから、分野の垣根を越えて結びつく知識や感覚を、考えたり感じたりするのがとても好きです。”


『ムーサの芸術論』を読んでくださった方からメールをいただきました。私も全く同じ。ジャンルから深める方法もあるけれど、例えば「自分は建築専門じゃないけど、自分を驚かせてくれる美しい建築なら体験したい!そんな方を見たこともない美しさをもっとシェアしたくこのブログを書いてます。

というわけで、今日は、驚きの絶景!を教えてくれるアートブックをご紹介します。文学、地理学、数学、天文学、科学、医学、物理学、そして薬草園….。古代ギリシアの芸術の女神/ムーサの園・ムセイオン(学術堂。「ミュージアム」の語源)は、あらゆる専門家を集めて芸術研究をしていました。

今日は、正にムーサの精神を受け継ぐ1冊です。

そのアートブックの名前は『YOUR GLACIAL EXPECTATIONS』。著者は、美術家のオラファー・エリアソン。日本語に訳すと「氷河の遺産」。不思議な名前だけど、その由来を聞いて、本をみれば直感的に理解できるはず。

Your glacial expectations, 2012
Kvadrat, Ebeltoft, Denmark, 2012
Photo: Annabel Elston ©︎Olafur Eliasson

低木・草木の中にあり、周りの景色を完全に取り込んでいるのは、。まるで小さな氷河のよう。

ここはデンマーク・ユトランド半島のエーベルトフト。鏡が置かれている地域は、このプロジェクトをエリアソンに依頼したKvadtrat(クヴァドラ社。ヨーロッパ1のシェアを誇るデンマークのテキスタイル・メーカー)の本社周辺だ。この地域は、氷河時代に形成された地形が多く残るという。

Your glacial expectations, 2012
Kvadrat, Ebeltoft, Denmark, 2012
Photo: Annabel Elston ©︎Olafur Eliasson

本物の氷河はこれ。

Photo: Shawn Harquail

アイスランド系デンマーク人のオラファー・エリアソンは、広大な氷河を、楕円形の鏡にギュッと小さく凝縮して自然の中に持ち込み、設置した。その数、5つ。

「鏡は、地質学者、造園建築家、その他の専門家との緻密な計画によって、設置されました。(–中略)潅木、野生生物が囲まれ変化する空や生い茂った木々映し出し、エリアソンの真骨頂ともいえる周囲の景観全体を取り入れたサイト・スペシフィックな作品を成立させています。」

オラファー・エリアソン 公式HPより

Your glacial expectations, 2012
Kvadrat, Ebeltoft, Denmark, 2012
Photo: Annabel Elston ©︎Olafur Eliasson

鏡は、まるで氷河のように、木、低木、野生生物の間に水平方向に配置され、手付かずの荒野と穏やかな庭との相互作用が生まれます。

Kvadrat社の公式HPより
Your glacial expectations, 2012
Kvadrat, Ebeltoft, Denmark, 2012
Photo: Annabel Elston ©︎Olafur Eliasson

Your glacial expectations, 2012
Kvadrat, Ebeltoft, Denmark, 2012
Photo: Annabel Elston ©︎Olafur Eliasson

鏡は、景色(ランドスケープ)として、恒久的に設置されている。

まるで自然の景色。夢のように綺麗なこと!だけど、鏡の部分だけカットアウトされたようなおかしな雰囲気も漂う。上を見上げて空を見ていたのか?足元に空があるのか?上下が曖昧に融解してくる。

20世紀シュルレアリスム(超現実主義)の画家/ルネ・マグリット(※註1)が用いていたデペイズマン(※註2)のようでもあるけど、あれは二次元の絵画に畳み込まれた異なる要素のコントラストから、飛び出す絵本のように思考が展開し、考えさせられる絵。

こちらは、あたかも普通の景色として、情報処理してしまう。いや、しかし、待てよ。なんだろう?この微かな違和感は?!鏡と自然が行き来する景色は、絶え間なく変化する空や木々をうつし、「土地の過去・現在・未来」の時間がうつろい、融解する。そして、自然と人のかかわりについて、直感的なきづきをもたらす。本書では、日々変化する景色の写真、エッセー、ドキュメントが、この気づきを誘発させてくれる。

Your glacial expectations, 2012
Kvadrat, Ebeltoft, Denmark, 2012
Photo: Annabel Elston ©︎Olafur Eliasson

Your glacial expectations, 2012
Kvadrat, Ebeltoft, Denmark, 2012
Photo: Annabel Elston ©︎Olafur Eliasson

Your glacial expectations, 2012
Kvadrat, Ebeltoft, Denmark, 2012
Photo: Annabel Elston ©︎Olafur Eliasson

Your glacial expectations, 2012
Kvadrat, Ebeltoft, Denmark, 2012
Photo: Annabel Elston ©︎Olafur Eliasson

Your glacial expectations, 2012
Kvadrat, Ebeltoft, Denmark, 2012
Photo: Annabel Elston ©︎Olafur Eliasson

Your glacial expectations, 2012
Kvadrat, Ebeltoft, Denmark, 2012
Photo: Annabel Elston ©︎Olafur Eliasson

(※註1)ルネ・マグリット
世界が本来持っている神秘(不思議)を筆触をほとんど残さない描法の精緻なイメージとして提示して、画家サルバドール・ダリ、「言葉とイメージ」の問題を追求した哲学者ミシェル・フーコー、広告やグラフィックアートの分野にもその影響が見られるなど、20世紀の文化・思想に大きな影響を与えた。

(※註2)デペイズマン:
「人を異なった生活環境に置くこと」、転じて「居心地の悪さ、違和感;生活環境の変化、気分転換」を意味するフランス語。美術用語としては、あるものを本来あるコンテクストから別の場所へ移し、異和を生じさせるシュルレアリスムの方法概念を指す。

エリアソンは、2003年にロンドンのテイトモダン美術館の入り口にある吹き抜けホールに、巨大な太陽を出現させた。(”The Weather Project /ウェザー・プロジェクト” )

もちろん、作り出した太陽だ。オレンジの幻想的な景色は、「アート好き以外」の人々にも「体験したい!」という気持ちをたかならせる吸引力があった。

ホールに座り込み、太陽を眺める人々。古代のアステカ人やエジプト人が感じてたのは、こんな気持ちだったのだろうか。畏れ敬う気持ち。ありがたい気持ち。世界のどこに行っても太陽信仰があることからわかるように、太陽は私たちを平等に照らし、生命を繋いでくれる。なんて知識よりも早く、光を共有する力を、人々の心の中に轟かせた。

※ 展示の様子はこちらの動画から↓

※ 光、水、霧、プリズム、植物など、自然現象を扱いながら、驚くべき景色を五感で体験させてくれるエリアソンの作品の雰囲気はこちらの動画から↓

デンマークの土地に根ざしていながら、これは私たちが共有する、頭の中のビジョンなのだ。

オラファー・エリアソンは、2020年3月中旬から、東京都現代美術館で10年ぶりの展覧会『ときに川は橋となる』を開催予定。初期の代表作である、暗闇の中に虹が現れる《ビューティー》(1993年)は、本当に息を呑むほど美しいので、多くの人に体験して欲しい!

※ 私が2016年にソウルのリウム美術館で見た展示のようすはこちら↓
リング状の霧雨のカーテンの中に入ると、そこは別世界。そして、そこから見えるのは虹…!

※コロナウィルスの影響により、オープン予定日だった3/14、15は展示休止が決定している。今後、予定が変わる可能性もあるようだが、HPからスケジュールをチェックして、ぜひ足を運んで体験したい。

■【新型コロナウイルス感染症の拡大防止に伴う主催事業の休止等のお知らせ

INFO

◉ 会期:
2020年3月14日(土)-6月14日(日)※3月14日、15日は休館。
休館日: 月曜日(5月4日は開館)、5月7日

◉ 開館時間:
10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで

◉ 会場:
東京都現代美術館 企画展示室 地下2F

梅澤さやか