日本人が知らない海外で活躍するアーティスト❷現代美術家:泉 太郎

「日本人が知らない海外で活躍するアーティスト」第2弾です。

こんにちは。日本文化を真髄から学ぶ『ムーサの芸術研究会』主宰してます梅澤さやかです。この記事では、2017年のパリのパレ・ド・トーキョーに続き、2020年6月には海外の大舞台であるスイス・バーゼルのティンゲリー美術館で個展が控えている現代美術家の泉 太郎さんをご紹介します。

コンパクトストラクチャー(U)
2020
Single channel video
© Taro Izumi
Courtesy of Take Ninagawa, Tokyo

泉 太郎さんは、現代美術好きにも、現代美術に馴染みがない人にも、とてつもなく「面白い」。その「面白さ」をどう伝えるか?書き出したものの、珍しく困ってます。

まずは、現代美術ギャラリー/ Take Ninagawaで開催中の【 泉 太郎:コンパクトストラクチャーの夜明け 】展(2020年2月29日〜4月25日)の様子をサッとご覧いただくことから始めましょう。

もちろん展示を観ていただくのが一番!ですが、プレビューとしてご覧ください。ほんの1分で軽くまとめてます。

今回の展示は、全部で9点。
泉さんが、これまで展覧会準備のために宿泊した各国ホテルの部屋で撮りためてきた映像をシングルチャンネルのビデオ(註)で見せています。

(註):シングル・チャンネル:
ひとつの電子データをひとつの再生デバイスから上映するビデオアート作品のこと。

さて、パッと観て、何か「おかしい」ことで気づかれたことありますか?気づかれ方は、きっと日頃から視覚で観察することに慣れてる方だとおもいます。

映像の中に、映像がありますね。
作品によっては、映像内の映像フレームが斜めってるものもあります。

例えば、下の作品『コンパクトストラクチャー(逆さピラミッド)』をご覧ください。

映像の中には、作家自身と思しき人影が映り込み『鏡の国のアリス』のように、作家が鏡の中に入り込んでしまったように主客が入れ子になっています。
かと思えば、モニターにはグラフィカルな赤とピンクの四角形が浮かび、時折、右側から左側へ、やはりグラフィカルなブルーの縦線が動きます。一見、関わりがないように見えるそれぞれの映像が、ひとつの映像として同時並列されています。

コンパクトストラクチャー(逆ピラミッド)
2020
Single channel video
© Taro Izumi
Courtesy of Take Ninagawa, Tokyo

視てると、時間と時間の間(はざま)に宙ぶらりんになってしまった感覚になります。

この視点の「位置」からは、異なる時間の流れが同時に体験できます。例えるなら、小さな自分が、脳の真ん中の小さなコクピットに陣取っているような。まだ、何を見て、どの世界に入っていくかを決めていない。とても流動的な状態。泉さんの映像が一見「意味がわからない」のは、この「コックピット位置」がベースの視点になっており、全てがまだ意味付けられる前に戻るからなのかもしれません。

映像は、編集機材を介せず作家の思考をたどる「ドローイング」のように作られながら、決して抽象世界でも非日常世界でもなく、あくまで日常の視覚を拡張したように映り、まるで視ている自分自身の目のようにも感じます。

コンパクトストラクチャー(放ち送り)
2020
Single channel video
© Taro Izumi
Courtesy of Take Ninagawa, Tokyo

あるものといえば、「映像」。それから、「それを見るという意志(志向性)」。

だけど、ここにある映像は「オレンジが浮かんでます」「ドナルド・マクドナルドとカーネル・サンダースが、互いの商品を食べさせあってます」という説明ではハマりきらず意味の隙間があります。

意味が宙吊りになっても、モノゴトとともに流れている「運動」があることは確かに、はっきりと、明確に、感じます。

この「運動」に気づいてチャンネルを合わせると、泉さんの作品は、とても自由でまるで笑ってるように見えてきます。それは、とっても面白い体験です。同時に、普段の自分が、限定した意味(時間)の中に入り込んで凝縮しきっていることにも気づきます。

どんなモノゴトにもある裏/表を、クルクルとコインを遊ぶように映像は展開します。

コンパクトストラクチャー(時間殺しを殺させない)
2020
Single channel video
© Taro Izumi
Courtesy of Take Ninagawa, Tokyo

コンパクトストラクチャー(野犬)
2020
Single channel video
© Taro Izumi
Courtesy of Take Ninagawa, Tokyo


軟骨の旗
2020
Single channel video
© Taro Izumi
Courtesy of Take Ninagawa, Tokyo

Take Ninagawaのオーナー & ディレクターの蜷川さんによると、パレ・ド・トーキョーの展覧会『Pan』(2017)から観ていくと、こういった構造も理解しやすいそうです。このインスタレーションをご覧ください。

Taro Izumi
Tickled in a dream…maybe? (The cloud fell), 2017
Installation view at Palais de Tokyo, Paris
©Izumi Taro
Courtesy of Take Ninagawa, Tokyo
Collection of Takaki Torikoe, loaned to Hara Museum ARC

インスタレーションは3つの層から成っています。

❶ サッカーの試合での選手の「動き」の瞬間のグラビア(正面右の写真)
❷ 椅子やテーブルなど日常的なプロダクトで作った構造物を支持体にその「動き」を再現(正面左の映像)
❸2つの写真を展示した空間に、構造物そのものを設置(手前)

ここでも「スポーツ」という意味や、日常の動きという意味が宙吊りになりながら、1つの繋がりの中に同時存在しています。社会的なメッセージを読み取ることもできますが、直接的ではありません。むしろ、視覚とビジュアルの成り立ちそのものを表してることで、表/裏の両方を行き来できる「曖昧さ」「流動性」「運動」の面白さの方が際立つことで、人を食ったような批評性を感じます。

Taro Izumi
日焼け止めを忘れた日を忘れた
To forget the day that I forgot to wear sunscreen, 2017
Single-channel video
Installation view of “Pan” at Palais de Tokyo, Paris
©Izumi Taro
Courtesy of Take Ninagawa, Tokyo

こちらは、同じく『Pan』の展覧会から。
巨大なレンガの壁をプロジェクションしてるように見えますが、実は1枚のレンガを毎日撮影し続けたデータを数百枚 並べたもの。同じレンガだけど、1つ1つ光の加減や色が違うだけではなく、何かが横ぎっていることもあります。

フランスでの熱気はこちらの動画からどうぞ!

こうやって見ていくと、泉さんは映像のタオイストなのか?とも思います。

なぜなら、世の中は、「ストーリー」の時代。わかりやすく伝わりやすい言葉(意味)が求められます。それらの多くは「映像という言葉(ストーリー)」を使って伝えられます。
泉さんの作品は、そんな表側の言葉を否定することなくとことん面白がって操りながら、同時にその裏側で「言葉を宙吊りにしても、運動してる力」を感じさせてくれるようです。

2020年6月のティンゲリー美術館の個展は、これらの作品をさらに発展させて、どんな作品を見せてくれるのでしょうか?とても楽しみです。

今年以降、日本でも大規模な個展が観られたら嬉しいですね。

INFO

泉太郎:コンパクトストラクチャーの夜明け
於:Take Ninagawa


◉ 会期: 2020年2月29日(土)- 4月25日(土)
◉ 場所: 〒106-0044 東京都港区東麻布 2-12-4 信栄ビル1
T: 03-5571-5844
◉ 開廊時間 : 11:00 – 19:00 / 日, 月, 祝日休廊

梅澤さやか