
こんにちは。
ムーサの芸術研究会・主宰 & 日本文化ラーニングをプロデュースしてます梅澤さやかです。
〈京都人に案内してもらう京都篇〉続いてます。
友禅で人間の国宝・森口邦彦さんの《Yuzen Design》展(@京都国立近代美術館)は、幾何学模様を友禅の技法で実現したらどうなるか?を追求した集大成展です。
森口さんと言えば、2014年にリニューアルされた三越のショッピングバッグのグラフィックが有名ですね。

人と素材との「やりとり」。
HI(NY)の小山田 育ちゃんが「見たい!」ということで一緒に行きました。NYをベースに国際的に活躍する彼女からしても「刺激を受けた」と鼻息荒く、時間がおしてるにもかかわらず一緒にお土産コーナーでもお買い物フィーバーしてしまいました(笑)(そこで何を買ったかは、一番下に書いておきます)
例えるならば「1000円と100万円のシルクの何が違うか」といった質の違いがどこからくるかのお勉強ができる展示です。人と素材との「やりとり」が「質」に及ぼす影響がどのように生まれるか?知ることで、大量消費社会で忘れてしまった「工夫」を思い出すことができます。
グラフィカル思考だけど「友禅」
友禅(着物の染色法。元々は絵画的な表現を実現するために考案された)技法を使うと、フラットな支持体の上にフラットなグラフィックがのる「平面の世界」とは全く異なるモノが出来上がります。とても細かい立体感・動き・奥行きが加わるのですね。
着物のほとんどが一重なのは、グラフィカル思考(オプティカル・アートの変形として)から着物を作られてることを表してると思います。展示も衣装がけスタイルで陳列し、非常に美しく見えます。やがて、遠くから見たとき、近くに寄ったときのアウラも微細に変わるということに気がつきました。多様なマテリアル・色彩、それらが織りなす層による視覚効果が複雑なのです。

工芸品としての複雑な工程
光を感じながらプリズムの粒子を思い出すように、作品は工芸品として気の遠くなるような手のこんだ工程が関わっていることを肌で感じます。
例えば、下のいずれも友禅の特徴的な技法で森口邦彦さんが父の華弘さんから引き継いで発展させたもののほんの一部なのに、これだけ手をかけているのです。
◆〈糸目糊〉 これは、防染糊を使って色が輪郭の外に流れ出ずに繊細な下絵を描くことができる友禅の特徴的な技法です。糊を引いた後が細い線として表れるため、糸目糊と呼ばれます。 仮縫いした着物を解いてから、下絵の文様の輪郭にそって糊を置いていきます。ケーキの生クリーム飾り絞りみたいな道具(円錐状の柿渋紙に糊を入れ、先端に孔をあけて絞り金をつけたもの)を使って絞りながら細い線を引きます。 |
◆〈蒔糊〉 湿らせた布に粉末状の防染糊を蒔くことで、生地に細かく不規則な点模様を染め抜く技法です。上から染料をかけても糊の部分だけ染まらずに粉雪のように残ります。 度により糊の出方が変わるので大変難易度が高いテクニックだそうです。また糊を蒔いては別の色で染める工程を繰り返すことを「重ねる」といい、西洋の印象派絵画ジョルジュ・スーラのような点描表現が生地の上に現れます。上の写真・五角形の点描も蒔糊技法によります。 |
展示を堪能してから工程のドキュメンタリー動画で拝見して、ため息が出ました。(必視です。)
さらに、着物として纏えばまたスケール感も模様の見え方も変わるわけですよね。それを逆算して最初の図案を描かれるわけです。展示動画を拝見していても、工程でも一番大事なのが「図案」ということでした。
ちなみに、一番上で紹介した三越のショッピングバッグも、着物としてデザイン・作成されたものをバッグに落とし込んでいるそうです。オリジナルの着物は一点だけ。三越がコレクションしていて、本展でも展示されています。
60年代のパリの洗礼。OPアート・ファッション・バウハウス・バルテュス
森口邦彦さんが幾何学・友禅を作るに至ったには、1960年代のパリ国立高等装飾美術学校への留学が契機になっています。そこでの指導教官は、バウハウスで教育を受けたジーン・ウィドマー(『ジャルダン・デ・モード』誌のアートディレクター)だったそうです。まさにオプティカル・アートと服飾産業が交差する現場にいたんですね。
さらにジーン・ウィドマーを介して、画家のバルテュスと出会った森口さんは「日本の友禅の道を途絶えさせてはいけない、それが君の責務だ」という強いアドバイスを受けて、友禅国宝のお父様・森口華弘の工房に戻り、現在に至ります。誰と出会うかのご縁、そして、それを受け取る側の器量もあっての流れです。
ところで、フランスのマクロン大統領は、昨年G20大阪サミットで訪日した際に、森口先生の工房を公式訪問してます。日本に残る資産の一つは間違いなく芸術文化ですよね。日本というローカルに閉じ込めずに普遍的な意義にきづいて発信したいものです。
Living National Treasure Kunihiko Moriguchi’s “Yuzen Design” exhibition,held at the National Museum of Modern Art, Kyoto. This is the culmination of an exhibition that explored what would happen if geometric patterns were realized using the Yuzen technique.
Most of the kimonos are single-layered, perhaps because they are made from graphical thinking. It is interesting to see how the aura changes minutely when viewed from a distance or up close.
It’s the effect of various materials and colors of the Yuzen technique in layers which proofs this creation is not s flat graphic on a flat medium.
You can understand what it means in the documentary video of the creation process. It’s must see and very interesting.
I got a sense of Bauhaus from the graphics on the Mitsukoshi shopping bags designed by Moriguchi, in fact, his instructor at the Ecole Nationale Supérieure des Arts Décoratifs in Paris was Jean Widmer of Bauhaus. Through him, he met the painter Balthus, who advised him, “Don’t let the Japanese way of Yuzen die out, it’s your responsibility,” and he returned to the workshop of his father, Hanahiro Moriguchi, who is also a Yuzen national treasure.
By the way, President Macron of France, when he visited Japan last year for the G20 Osaka summit, he paid an official visit to the studio of Dr. Moriguchi. I think we Japanese should learn and introduce more about our culture as one of Japan’s remaining assets is undoubtedly arts.
INFO
人間国宝 森口邦彦 友禅/デザイン―交差する自由へのまなざし
2020年10月13日(火)~12月6日(日)
※ 前期:10月13日~11月8日/ 後期:11月10日~12月6日
詳しくはこちら(オフィシャル)>
ちなみに、グッズ販売でいくちゃんと私の2人とも購入したのが、一筆箋でした。森口先生の作品はグラフィカルだから、グッズにしてもぴったりハマります。でも友禅で作られたグラフィックなので、平面グラフィックとは異なる奥深さが面白いのです。三越のバッグも意匠を描いただけではなく、「ペーパーバッグのサイズに染めた」ものを印刷したそうですよ。

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